◆展覧会やイベント(一)


《正倉院》について
[2009年11月]

 先日、正倉院展に行ってきました。
正倉院はご存知のとおり天平時代の聖武天皇、光明皇后のゆかりの宝物を収蔵しており、年に一回公開されています。 展示されている宝物は、図録や参考本で一応知っているのですが、やはり実物を見ると感慨深いものがあります。もちろん大変多くの入場者が居ますのでゆっくりと観察する事は殆んど無理です。
また実際は宝物を見たのか人を見に行ったのかわからないと感じる事もありますが、それでも本物を目の当たりにすると千三百年前の工芸芸術の技に感心するばかりです。
正倉院御物には日本独自の物もありますが、その多くが中国唐時代に輸入されたもので遠くササン朝ペルシャからの輸入品も見られます。
このように時代を超え、文化宗教を超えた宝物が現在の日本において多くの人々を魅了している事に驚きます。そして何より一千三百年前の宝物が当時の姿そのままに現存している事はまさに奇跡と言えるかもしれません。
結局、人間の感性は時代や地域が異なってもそんなに変わらないのです。特に永い継続した文化を持つ日本においては、時代を超越した審美眼がある筈です。
そして、悠久の歴史の中で評価され続けられたものだけが現在にのこっているのですから、それらのものが今日評価されて当たり前なのでしょう。
あらためて「和装」が伝統工芸的衣裳とするなら、「帯」つくりには基本が大切だと感じました。

《 西陣コレクション 》について
[2010年9月]

 来月、四日から七日まで西陣織工業組合において「西陣織元コレクション」が開催されます。
これは低迷する和装業界に西陣の織元が一石を投じ、業界を活性化しようとするものです。
この「こばなし」でも再三お話しましたが、現在和装産地は非常に危機的な状況にあり、西陣産地もその例外ではありません。
特に西陣帯地は材料、工程において裾野が広く、職住一体の分業でなりたっているので産地全体が活性化しなければ生産を継続する事すら出来ません。現在の和装産業を振り返れば、総需要の減少を補う為にいわゆる企画販売が横行し、本来の「商品重視」の販売形態から「先ず販売あり」の形態が多くなりました。
それに伴い産地で生産されている「商品重視の商品」が最終消費者の目にふれない事例も多くみられます。
且つ流通が複雑怪奇な様相を呈するにつれ、生産者の意に反する販売も目に付くようになりました。
そこで西陣の織元が新しいテーマの下に新作を提案し、また産地で生産されている商品を消費者、また消費者に近い小売業者さんに見ていただく機会を持ちたいとの想いから「西陣コレクション」を開催する運びとなりました。
「西陣コレクション」を開催するに当たり、その意図する所を関係各位に理解していただく事は大変難しく、特に流通段階においては「何をどうしたい」とおっしゃる方もおられます。
当事者の組合員でさえ周知徹底していません。しかし、この状況においてはとにかく何かのきっかけで産地が活性化すること、またその底力を見ていただきたいとの想いでスタートします。
和装業界の中だけでなく、一般消費者の方々にも百柄ちかくの新作と共に総ての商品を見て頂ける機会を得る事で、西陣産地の現状と想いを理解していただくと共に、様々なご意見をいただければ西陣の活性化、ひいては和装業界全体の活性化に繋がるとのおもいです。
多くの方にご来場頂く事を願っております。

《きものサローネ》について
[2011年11月]

 京都で開催されます「第26回国民文化祭・京都2011」にあわせて、世界目線で「きもの文化」を発信し、新しい「きもの文化」を創ることを目的に『第1回京都きものサローネ』が、来月一日から三日まで京都産業会館で開催されます。
京都織物商業組合加盟の約三十社の商社がブース出展し、小売り、百貨店を対象に商談するとともに、
一般消費者に出展商品のPRを行うものです。
西陣織工業組合からも併催という形で数社が出展します。 弊社もこのきものサローネに出展することになりました。
弊社は創業五十年になりますが、いまだに一度も「売り出し」や「作品展」をしたことがありませんでした。「メーカーは毎日が売り出し」「商品が語ってくれる、自らの商品を自身で褒めるなんて」との思いから必要ないと考えておりました。
しかし昨今の情報化社会においては良くも悪くも情報が独り歩きし、特に帯地におけるネット上の業者のコメントはある意味言いたい放題のように感じられます。一昔前は帯専門問屋さんがメーカーの思いやスタンスをしっかりと説明されていたのですが、悲しいことにそのほとんどがなくなりました。
したがってメーカーが自らの作り手としてのスタンスを消費者に訴えなければならないと考え始めました。 呉服業界は複雑な流通組織を抱えています。勿論、その商品の特殊性から必要なものであり、価格においても定価や再販価格があるわけではありません。
弊社も消費者に直接販売しようとは思っていませんし、出来るはずもありません。 しかし、作り手としての「想い」や正確な商品情報を消費者に伝えるべき時代になったように思います。
特に新しいものや特殊なものはありませんが、弊社の創業以来の代表的な自信作を展示したいと考えております。お時間がありましたらご来場頂きます様よろしくお願いいたします。

《商品の製作と販売》について
[2011年12月]

 先日、京都文化博物館で開催されている「京の小袖」展に行ってきました。
前期、後期ともに行ったのですが、その質量ともに素晴らしい内容で本当に感動し久しぶりに刺激を受けました。 このような展覧会などには出来るだけ足を運ぶようにしているのですが、ここ二、三年は前売り催事に忙しく、めっきり回数が減ってしまいました。
催事に行きはじめた時には販売の現場の実態を目の当たりにすることの大切さや、作り手としての理屈だけでは販売に結びつかない事を感じることで、異なった刺激を受けました。
今回しばらくぶりに見応えのある「京の小袖」を観たことで、あらためて作り手として刺激を受けました。 確かに前売りの現場を知ることは大切です。しかし、そのことに慣れてしまうと制作者としてのスタンスが揺れます。ある意味永遠のテーマでもあるのですが、作りたい帯と売れる帯は異なることが多いのです。商品なのか作品なのか、また西陣帯そのものが作品を作ることが出来るのか、常に問題となるところです。
「こばなし」でも何度となくお話ししましたが、西陣帯に限らず織組織で柄を表現する為には「紋紙」といわれる「型紙」が必要です。したがって手描き友禅や爪綴れのように世の中に一枚だけ、一本だけというわけには制作できません。いわゆるロットがあります。
また、俗に言う「売れ筋商品」には価格が大きな要因となります。「上代でこのくらいの価格の商品が売れ筋です。」この当たり前の一言が本当に難しいのです。
私も小さいながらも梅垣織物という企業の経営者であります。少ないですが社員もいます。
制作者としての自分自身が納得できる作品だけで商売が成り立てば言うことはないのですが現実はそう簡単にはいきません。やはり売り頃の価格を意識しないわけにはいきません。 特に前売りに本格的にお手伝いに参加するようになってからそのような傾向が大きくなっていたと今回改めて感じました。
「作品なのか、商品なのか、」永遠のテーマとして向き合ってきましたが、今回の「京の小袖」を観て少し反省しています。
特に手を抜いたとは思っていませんし、現在作っている帯も自信を持っています。販売会へお手伝いに行くことも大切なことですし、そこから得たものも多くありました。
しかし振り返ってみれば、少し販売重視になっていたかもしれません。 帯は着物がなければ締められません。ある意味付属品でもあります。特に近頃の販売会においては、きものと帯そして小物までセットで販売される事が多くあります。
こうなると帯地はほとんど襦袢や帯締め等と同じ扱いです。つまり帯の価格がセット価格の「売り頃」に影響してしまいます。このような現実を目の当たりにすれば、気の付かないうちに制作者としての想いが少し減っていたのかもしれません。
今回の「京の小袖」展は私に対して「販売することも大事、現実を知ることも大切、でも制作者の想いを持ってがんばって帯づくりしなさい。」と言ってくれたような気がします。

《アールヌーボーのネタ》について
[2012年9月]

 先日、京都近代博物館において「KTAGAMI Style もうひとつのジャポニズム」という展覧会があり見学してきました。
日本の「型紙」は、武家階級の正装用として重用され、その後町人階級にも拡がり、江戸中期に最盛期を迎えました。そして十九世紀半ばから産業化がすすむ西欧社会に於おいて、時代に即した造形表現を求めた多くの芸術家やデザイナーによって収集され、彼らに影響を与えたそうです。
十九世紀半ばの西欧における印象派やアールヌーボーの作家たちにとって、浮世絵や琳派絵画や工芸品に代表される日本美術は、万国博覧会への出品をきっかけにしてその芸術活動において大きく影響されたものでした。その下地のもとに工芸の世界においても日本趣味が隆盛し、そのネタ帳として日本から大量の「型紙」が輸出され用いられました。 古今東西、人は新しいものを求めます。
しかしながら奇をてらったり、単に現状を否定するものだけでは継続しません。何かしら根拠のある物で且つ新鮮なものは、そう簡単には見つけられないでしょう。
昨年来、当社の新製品に「カラオリ・ヌーボー」という品種があります。従来の「唐織」のボリューム感と感性を残しつつ、デザインは西欧の「アールヌーボー」を意識したものでした。特に「ビクトリア・アルバート博物館」は英国ビクトリア朝の服飾、装飾をそのまま美術館にしたものであり、当社も商品製作の参考にしています。その参考工芸品においてなんとなく日本をイメージ出来るものを参考にすることが多かったのですが、考えてみれば元々日本がデザインソースだったのです。
この展覧会に出会う事により、日本の美意識の高さを再認識するとともに誇らしくまた安心しました。
日本芸術は十九世紀の西欧文化において大きな影響を与え、その後一世紀にわたりモダニズムの芸術運動も発端となり、また昨今の「現代ジャポニズム」にも踏襲されています。まさに日本文化は世界に類を見ない芸術性を持っているといってよいでしょう。
その「和文化」の最たる和装を日本人自身が自信をもって大切にして、そしてより身近なものとして扱えるようになりたいものです。
そうなれば和装は世界に発信できる服飾文化であるとともに成長できる業界になれるかも知れません。

《消費者ニーズと業界ニーズ》について
[2012年11月]

 先だって十月十五、十六日に東京日本橋のコレド室町に於いて「2012 着物サローネin日本橋」が開催され、当社も西陣織工業組合より参加させていただきました。
両日とも非常に盛会で予定の五割以上の来場者にお越しいただき、またいろいろなお話やご意見を賜り大変ありがとうございました。 会場の構成としては、東京織商、京都織商、西陣工業組合の各社ブースが半分、あとはいわゆるインディーズ着物や和物雑貨の小売りブースとイベント用の舞台でした。
舞台に於いては来場者参加型の講演会や落語や和太鼓など「和物」の趣向の様々なイベントがあり、そのために来場者の滞在時間が長くより活気のある会場となりました。
当社のブースは会場全体からみればやや場違い的なフォーマル帯を中心に展示していましたので、来場者の五パーセントぐらいの方に興味を持っていただいた感じでした しかしながらホームページやブログを読んでいただいている多くの方にお声掛け頂き、「こんな帯、初めて見ました」とか「やっぱりここが安心する」といったお話や、「いつも楽しみにしています」「いろいろ勉強になります」といったことをお声掛け頂き本当に感謝するとともに、ブログを通じて消費者の方々に情報発信する事の大切さを実感しました。
二日間多くの方とお話させていただき実感したことは、様々な消費者の多様なニーズが混在し、多くの答えがあるということです。 一言でいえば「個性の時代」です。従来の呉服業界の常識では考えられないような「キモノ」がありその「着こなし」も様々ですし、今回の来場者の多くはそのような和風アパレル感覚の業者によるネットによる動員と思われます。
一方、従来の消費者、言い換えれば当社のような古典のキモノに興味のある方々も少数派ですが居られます。またそのような方々はキモノ全般に非常に詳しく、且つ興味をお持ちです。帯に関して言えば
「素材や組織」「意匠」など尽きることなく質問され、私の説明に熱心に耳を傾けておられました。
中には、「昨日の正倉院撥鏤の話おもしろかった。早速ネットで調べました。」と翌日にご友人を誘って来場された方もありました。
インディーズ着物であれ、従来のものであれ消費者は自分の好きなものや興味のあるものを求めています。決して価格が決定要素ではありません。よく消費者ニーズを的確に捉える事が重要だといわれますが、現代のような多様な個性の時代には所謂「売れ筋」は存在しません。しかし現実の呉服業界は「売れ筋」を求め、その強引な答えを「価格」に求めているように思われます。
確かに「価格」は最終的な購買要素にはなるでしょう。
しかしそれが先行するのではないという事を呉服業界全体として認識しなければなりません。

《 キモノファンは熱心 》
[2013年11月]

 去る十月二十日から二十三日まで「キモノサローネイン日本橋」が東京日本橋のKOREDO室町とYUITOに於いて開催されました。大変多くの皆様にご来場を頂き誠に有難うございました。また、主催者である「サローネ委員会」の皆様には開催までの数か月間にわたり本当にご苦労様でした。今回の成功は関係各位の尋常ならざる努力のお蔭と感謝しております。

当社も昨年に引き続き参加させていただきました。
今回は参加企業も昨年の倍以上のブースを出し、会期も三日間となりました。昨年は二千人という来場者でしたが、今回は一万人の目標を掲げ少し厳しいかと危惧していましたものの、結果的には一万人をカウントできたそうです。 初日の日曜日は朝から大雨暴風警報が発令される最悪のコンディションでしたがオープン当初から人波が絶えず、またほとんどのお方が御着物姿で来場してくださいました。皆様がサローネを楽しみにまた着物を着てゆくことを本当に心待ちにしていただいていたことを痛感いたしました。

勿論、反省点もあったと思います。会場が二つに分かれてしまい来場者にご不便をおかけしたことや、カーニバルとして楽しんでいただくのは良かったのですが、見ていただくブースと買っていただくブースが混同してしまい、結果的にまとまりのないブース配置となってしまったように思います。 多少の反省点はあったものの今年の「キモノサローネ」は大成功だったと思います。 何よりも一万人の来場者を達成したこと、また日本橋を着物の街にとの当初の目標は間違いなく達成できたと思います。

当社としては昨年の反省も踏まえ、「カラオリヌーボー」という当社にしてはカジュアルなしかし当社ならではと自負する商品に絞って展示させていただきました。そして多くの消費者の方々の生のご意見を拝聴させていただきました。新たな着物の提案というよりはお手持ちの御着物が従来とは違うイメージでコーディネートしていただけるアイテムとしての「カラオリヌーボー」は、多くの方々にそれなりの評価をしていただきました。 そして何よりも着物が大好きとおっしゃる着物ファンの方々と着物に関するお話が出来た事実に感謝しております。

昨今の着物業界はあまり良い話が有りません。作り手も売り手も嘆き節ばかりです。業界の活性化は最終消費の需要拡大しか解決策はありません。そしてこんなにも多くのキモノファンがいらっしゃるという事実を踏まえ、業界としての努力不足を真摯に反省しています。
最初の一歩は確かに困難を伴います。昨年、産声を上げた「キモノサローネ」が確実に成長したのはキモノファンの熱い想のお蔭であり、この想いを大切に育てなければならないと思うのです。

《 西陣織大会を終えて 》
[2014年4月]

去る三月二十一日から二十三日まで京都岡崎のみやこメッセにおいて「西陣織大会」が開催せれました。大変多くの方々にご来場いただき本当にありがとうございました。
今年は西陣織大会だけでなく、友禅や他の伝統産業品の大会などが同じエリアで開催されたこともあり、三日間で五千人以上の来場者があったそうです。 キモノ愛好家や和装に興味のある方がこのように沢山おられ、お出かけいただいた事は和装産業にとってまだまだキモノ需要が有ることを知り得る良い機会だったと思います。
出品作品は時流に乗ったものや古典的なものなど様々でしたが、私が一番良かったものは「本綴れ」の作品でした。いわゆるハンドメイドならではの組織そして表現力がありました。ある意味変わりようの無いまた変えようの無い感性がありました。 当社も今回のテーマ「琳派400年」に因み琳派を題材にした帯を三本出品させていただきました。おかげさまでそのうちの「琳派色紙競花文」が入賞させていただきました。 ブログのときどき日記にも掲載してあります。よかったらみて下さい。

さて、業界の有識者による講評があったのですが、「創造性、新規性、が無い」「価格が高い」「配色に工夫がない」「感性豊かなものがもっと欲しい」など中々厳しいものばかりでした。私が思うに審査の基準が広義すぎてコメントのしようがなかったように思われます。 一応は帯の種類として「袋帯、丸帯」「袋なごや帯、加工帯、小幅袋帯」「なごや帯、黒共帯、夏帯」「本綴帯」「手織帯」との品種別で展示され評価していただきました。 しかしながら現実は、成人式の振袖以来、初めて帯を購入していただく事を前提としたものや着物愛好家を対象としたものが混在しており、また審査に於いて提示されていた参考上代も一定の基準をもたないものでした。言わば比較のしようのない審査です。当社のように古典柄のフォーマルものが対象ならある意味「変わらない」は当たり前ですし、「感性豊かなものがもっと欲しい」といわれても人によって感性が異なるのは当たり前です。
この際、アカデミーやグラミー賞のように部門別ノミネートをしても良いかと思います。「留袖、色留、訪問着用」「付下げ、色無地用」「先染め、紬用」などせめて用途別の分類の方が良かったように思います。九寸や綴にもフォーマルなものもあれば、洒落た袋帯だってあるのです。 クラッシック、ポップス、邦楽、ビジュアルロックなどを音楽とうい括りで比較することは不可能であり、批評することもできない様に思います。 「西陣織大会」が来年いろいろな意味でステップアップすることを望みます 。


第三回、きものサローネを終えて
[2014年12月]

去る十一月八日から十三日まで東京日本橋のCOREDO室町と野村ビルYITOにおいて きものサローネin日本橋2014が開催されました。今年で三年目の開催となり当社も三年連続しての参加となりました。

初年度は「取り敢えず着物姿の方に集まっていただこう」との趣旨で暗中模索の中での開催でしたが、二日で四千人近くの来場を頂きました。また昨年度はインディーズやネットショップの出展が多く、やや学園祭的な雰囲気で賛否両論あったものの荒天にもかかわらず八千人以上の来場を頂きました。
今年は昨年一昨年の反省も込めて出展者もある程度絞り込んでの開催となった事やCOREDO、YITOの二会場の開催日がずれたことも影響したのか当社が参加したYITOでは三日間で三千四百人の来場となりました。
当社としましては昨年よりゆっくりとしたスペースを頂き、お客様にも余裕のある対応が出来たのではないかと思っております。また、個人的な感想ですが今年は前回、前々回に比べサローネの知名度は確実に向上していて本格的な御着物姿の方が多かったように思われました。そして来場者とお話させていただき様々な情報を得ることができました。

今回のサローネで改めて感じたことは、和装業界の産業としての生き残り手段が本当に難しいという事でした。京都の西陣だけで得る情報は「普段に着れるキモノが売れる。例えば紬や光らないもの。当然そのような価格帯でなければならない。」「礼装も売れない訳ではないが、需要は極端に少ないし高額なものは売れない。」というのが大まかな西陣界隈の情報です。確かにこのような情報は呉服業界全体の多数の意見であることは間違いないし、呉服の総需要に対しての割合が多いことも事実です。しかし直接消費者にお話を伺うと、「キモノはやっぱりお出掛け着、価格も大事だけど納得できるものが欲しい、人生の節目にはしっかりした礼装呉服を着たい。」とのようなお話を沢山いただきました。そういったお言葉を頂いて、私が信じていた事は間違いではなかったと強く実感することができました。

メーカー、問屋、小売り、このような流通形態が成り立つには最低限の最終需要が必要だという事は幾度となくお話してきました。問屋、いわゆる流通業者の多くは利益のある商材を扱います。低価格の商材を数量多く扱う事でも、高価格の商材を高益率で扱う事でも成り立てばよいのです。しかしながら現状は今回サローネでお話を頂いたお客様の求められるような商材はその需要が絶対的に少なくなってしまったので、従来の流通システムでは商売として成り立たない商材になりつつあります。そして成り立たすために高益率を求める事で結果的に高額になり一段と需要を低減させることとなっています。 着物は価格が安価になれば需要が増えるものではない事はサローネを通じ消費者の生の声として聞かせて頂きました。このことに業界はどのように対応すればよいのでしょうか?

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